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体も心も併せた全体を表す「身(み)」の所見

腰痛 「身」の所見で原因探る
http://www.yomidr.yomiuri.co.jp/page.jsp?id=85280

腰痛に悩む人はわが国で約2800万人と言われています。50歳代の男性Bさんも、30年間続く痛みに悩んでいます。軽い脊柱管狭窄(せきちゅうかんきょうさく)が見つかり20年前に手術を受けたのですが、良くなりませんでした。手術は成功しているのに、どうして腰痛が続くのでしょうか。

診察をすると、舌の周りに強い歯形がついています(舌歯圧痕(ぜつしあつこん))。首の後ろから両肩にまたがる僧帽筋に、強い凝りと圧痛を認めます。次に、意識障害や肩関節の筋力をみる「アームドロップ試験」をしてみました。私は慢性的な緊張の有無を診るのにこの試験をよく使います。Bさんの両腕を持って肩の位置までTの字のように持ち上げて手を離すと、彼の両腕は何度繰り返しても落ちません。

これらは、体も心も併せた全体を表す「身(み)」の所見と呼ばれます。

また、腰椎の両側の筋肉を指で押さえると強い痛みを訴えました。X線やMRI(磁気共鳴画像)などの画像検査では異常を認めません。

以上の体の所見より、〈1〉Bさんは若い頃から歯をかみ締めて頑張って生きてきたため、慢性的な緊張を抱えている〈2〉痛みは「筋筋膜性腰痛」という(検査では異常が見つからない)機能性の痛みが中心である――ということが分かります。Bさんの腰痛については、脊柱管狭窄という器質的な病気があったとはいえ、痛みの大部分は機能性の痛みだったのです。

「腰痛診療ガイドライン2012」(日本整形外科学会・日本腰痛学会編)によると、腰痛患者のうち原因の分からない腰痛が85%。それほど腰痛は難しい。では、心療内科医はBさんの治療をどのように行うのでしょうか。詳しくは次回で。(清仁会洛西ニュータウン病院名誉院長・心療内科部長 中井吉英)

(2013年9月26日 読売新聞)